税理士又は税理士法人の付随業務の範囲について
(平成14年 資料提供:全国社会保険労務士会連合会)

 社会保険労務士法第2条第1項第1号から第2号に掲げられている業務については、法第27条の規定によって、社会保険労務士の独占業務とされ、社会保険労務士でない者は、業として報酬を得てこれらの業務を行うことが禁止されています。
 ところが、税理士については、法制定のときの経緯で、法第27条ただし書及び法施行令第2条第2号の規定で、税理士法第2条第1項の業務(税務代理、税務書類の作成、税務相談)に付随する場合は、業務制限に触れないものとされています。
 しかし、付随業務の範囲については、社会保険労務士法制定(昭和43年6月)以来関係者の間で話し合われたことがなく、実態はそれぞれの立場での解釈によって行われて今日に至っているのです。
 ところで、昨年6月に、税理士法が改正されて、税理士法人が設けられることとなり、税理士法人にも付随業務が行えるようにしたいとの申し入れが、税理士の主管官庁である国税庁から厚生労働省にありました。この問題の処理について厚生労働省から意見を求められた全国社会保険労務士会連合会(以下「連合会」という。)は、理事会で審議した結果、連合会と日本税理士会連合会(以下「日税連」という。)との間で付随業務の範囲について協議し、明確にすることを条件とした「覚書」を交わしました。
 そこで、当連合会と日税連では、昨年11月から本年4月まで、5回の協議を行い、その結果、付随業務の範囲について次のような確認の内容をもって決着がつきました。


 税理士又は税理士法人が行う付随業務の範囲に関する確認書

 全国社会保険労務士会連合会及び日本税理士会連合会は、社会保険労務士法第27条ただし書及び同法施行令第2条第2号に基づく付随業務の範囲に関する協議において、下記のとおり意見の一致をみたのでここに確認する。
                      

1 税理士又は税理士法人が社会保険労務士法第2条第1項第1号から第2号までに掲げる事務を行うことができるのは、税理士法第2条第1項に規定する業務に付随して行う場合であること。

2 (1)上記1にいう税理士又は税理士法人が付随業務として行うことができる社会保険労務士法第2条第1項第1号から第2号までに掲げる事務は、「租税債務の確定に必要な事務」の範囲内のものであること。
  (2)社会保険労務士法第2条第1項第1号の2の業務(提出代行)及び同項第1号の3の業務(事務代理)は、付随業務ではないこと。

3 付随業務に関して疑義が生じた場合は、その都度、全国社会保険労務士会連合会と日本税理士会連合会との間で協議の上、解決を図ることとする。
  なお、年末調整に関する事務は、税理士法第2条第1項に規定する業務に該当し、社会保険労務士が当該業務を行うことは税理士法第52条(税理士業務の制限)に違反する。
                                                 
以 上


 この確認書で、付随業務の範囲についての日税連との合意ができました。これによって、税理士及び税理士法人は、労働社会保険諸法令に基づく申請書等の労働社会保険官公署等への提出をすることができないこととなりました。また、税理士等が行える付随業務としての社会保険労務士業務の範囲も、「租税債務の確定に必要な事務」の範囲内ということで明確にされました。また、「租税債務」(税法上では、租税債務を「納税債務」という。)とは、納税義務者が国または地方公共団体に税金を金銭給付すべき義務をいうと解されています。 なお、年末調整に関する事務についての法律上の解釈が文末に加えられています。連合会は、これは、付随業務には関連しない事項だとして確認書への記載を拒みましたが、話し合いの結果、日税連の強い要望に理解を示さざるを得ませんでした。
 会員各位にはすでにご承知のことと思いますが、年末調整に関する事務の執行に当たってはご配意ください。
 この確認書については、日税連と連合会との間の覚書とし、来る6月6日に、両会の会長が覚書に調印する予定です。
 5回の協議には、行政(厚生労働省と社会保険庁及び国税庁)も参加していただきましたので、これまでの経緯及び結果について行政も承知されているところです。連合会としては、改めて行政に対して、この確認書の内容が出先の官公署等に徹底されるとともに、確認書に基づく措置が取られるよう要望書を提出します。
 会員の皆様には、大変ご心配をかけましたが、以上の結果となりましたことを取り急ぎご報告いたします。

税理士の付随業務に関する確認書について

 確認書の調印について(役職名は平成14年6月当時のもの)

 平成14年6月6日、税理士の付随業務に関する覚書の調印が、全国社会保険労務士会連合会(以下「連合会」という。)大槻会長と日本税理士会連合会(以下「日税連」という。)森会長との間で行われた。この確認書は、連合会と日税連との協議の結果作成された確認内容を将来にわたって両会の合意とするために作成されたものである。これによって、社会保険労務士法制定以来34年にわたってまったく解釈基準がなかった税理士の付随業務についての解釈の基準となる合意が成立したのである。
 調印は、6月6日、両会会長、協議に参加した交渉委員及び事務局が集まり、連合会増田専務理事の経過報告に次いで両会長の挨拶があり、両会長による確認書の交換が行われた。引き続いて、懇談に移り、和気藹々のうちに、士業制度の変革期を迎えて、お互い手を携えて両会の発展を期することが合意された。

調印式
確認書を交わす大槻連合会会長(右)と
森日税連会長

調印までの経過

(協議の経過)
 平成13年の通常国会で成立した税理士法一部改正法には、新たに税理士法人を創設する規定が設けられていた。そして、この改正法を平成14年4月1日から施行するための準備の一部として、新設の税理士法人にも個人の税理士と同様に、社会保険労務士の業務を付随業務として行うことができるようにするための社会保険労務士法施行令の改正をしたいとの申し入れが、財務省から厚生労働省になされた。厚生労働省は、この問題は、直接の利害関係を有する団体同士の直接の交渉で解決することが適当であるとして、連合会が日税連と話し合うよう求めた。
 平成13年7月3日、連合会は、日税連の申入れに対し、施行令の改正により税理士法人が社会保険労務士業務の一部でも付随業務として行うことができるようにすることは、社会保険労務士の業際に対する影響が大きいとして、これを拒否した。
 しかし、日税連の強い要望があったため、連合会は、10月5日開催された常任理事会及び理事会の承認を得て、社会保険労務士法施行令の改正については、次の事項を条件とする覚書を交換した。

 1 両会は、税理士の付随業務について、誠意をもって協議すること。
 2 協議の場には、厚生労働省及び国税庁の担当官が出席すること。
 3 協議は、毎月一回行い、平成十四年三月末までには、終了させること。
 4 連合会は、労働保険の年度更新、社会保険の算定基礎届、労働・社会保険の被保険者資格の得喪及び保険給付、助成金・奨励金、就業規則の作成等7業務については付随業務には該当しないとの見解であること。

 覚書交換により、連合会が施行令の改正を認めた結果、社会保険労務士法施行令を含む税理士法施行令の改正が、10月17日公布され、平成14年4月1日に施行された。
 一方、この覚書による連合会と日税連との協議は、双方4人ずつの交渉委員、それに事務局と厚生労働省、国税庁の両行政の担当官を加えて、11月16日から開催され、5回目の平成14年4月11日の協議会で既報の確認書を作成し、6月6日にこの確認書に連合会及び日税連の両会長が調印することを取り決めて、終了した。

(協議後の経過)
 確認書の作成については、3月20日に開催された常任理事会及び理事会において、会長に一任されたところであるが、第5回の協議会の直前に日税連から確認書に「社会保険労務士が年末調整事務を行うことは税理士法第52条に反し、違法である」旨の記述を含めたいとの申し出があった。
 連合会は、年末調整事務は、付随業務とは関係ない垣根の問題であるとこれに反対したが、日税連の会員対策としてどうしても必要である、これを入れなければ、確認書を作らないという日税連の主張に対し、確認書作成の重要性を重視し、やむなくこれを認めた。
 これに対して、年末調整事務が行えなくなることは死活問題であるとの社会保険労務士会会員の声が高まり、連合会は、5月18日に臨時理事会を招集して対策を図ったところ、年末調整事務は税理士の独占業務ではないとする解釈もあり、また、分析すると年末調整事務のすべてが税理士の独占業務とは考えられないので、社会保険労務士もこれを行う余地があることを明確にするよう確認書を修正することを日税連に要求することが決議され、確認書の調印については、再度、6月5日に開催される理事会に諮ったうえ決定することとされた。
 そこで、連合会は、5月20日から、事務局交渉、専務交渉各二回を行った結果、確認書の修正は行わないとする日税連の考えを変えることはできなかったが、賃金計算事務(年末調整の結果行われる法定調書の作成・提出を除く。)は、社会保険労務士が行うことができる業務であり、連合会はこれを会員に周知することを日税連との間で口頭確認した。
 一方、連合会は、賃金計算事務を社会保険労務士が行うことの正当性について厚生労働省に照会したが、同省からは「貴見のとおり解釈して差し支えないものと考える。」との回答があり、これを認めた。
 連合会は、これを5月30日に開催した正副会長及び交渉委員の合同会議に報告したところ、全会一致で、6月5日の理事会には、調印を行う方向で理事会に諮るべきであるとされた。

(理事会の経過)
 6月5日に開催された理事会においては、前記の経過について増田専務理事から説明した後、大槻会長から、直前の常任理事会において、上記の経過を分析した結果、会長の責任においても年末調整の計算事務は行うことができると判断した。また、もし会員が年末調整事務を行ったことにより税理士法違反であると告訴された場合は、単に個人的問題ではなく、連合会は、業際の問題として都道府県会と共同して毅然たる態度で対処すると述べた。さらに、理事会に臨席をお願いした厚生労働省労働基準局労働保険徴収課長は、連合会からの照会に対し、他の法律に制限がある場合を除き、社会保険労務士は、賃金計算事務は幅広くできると考えていると回答したと述べられた。なお、労働社会保険諸法令に基づく申請書等の税理士による提出代行・事務代理はできないことを地方に徹底せよとの要望に対しても、同課長は、事実を地方に周知すると答えられた。そのほか、確認書の「租税債務の確定に必要な事務」の範囲をどう考えるかの質問について、連合会に「付随業務検討委員会(仮称)」を設置して検討し、その結果を具体的に示す。行政への対処についても、すでに文書によりお願いしているので、6日の調印が済んだらできるだけ早く確認書の内容を地方に徹底していただくと大槻会長から答弁された。
 その後若干の意見の交換があった後、これまでの議論による結論を理事会の決議としたうえ確認書の調印の是非について諮ったところ、満場一致で承認された。(直前の常任理事会でも、満場一致で調印が認められた。)

確認書の運用について

 以上のように、税理士が行うことのできる付随業務については、これまでは明確にされていなかったが、労働社会保険諸法令の規定に基づく書類等の提出業務が、税理士の付随業務から除かれた。その他の業務については、確認書の2の(1)にある「租税債務の確定に必要な事務」の範囲内のものが付随業務となるが、この点については、連合会は、「付随業務検討委員会(仮称)」を設置して、早急に検討を行い、具体的な見解を発表することとしている。
 また、最後に問題となった年末調整業務については、上記の経過や見解を基にまとめた理事会決議をもって判断することになるが、法定調書の税務官公署への提出は行わないこととすべきである。